トなしに得られるとされるが、現実の世界では、当然、企業の経営者のほうが投資家よりも企業の事業内容を熟知している。
このため、経営者がおこなう配当の増減は、経営者が株主や投資家に送るシグナルとして受け取られ、株価に影響を与えることがある。
例えば、増配は経営者が将来の収益見通しについて楽観的になったシグナルであり、反対に減配はその逆のシグナルであると投資家が判断するならば、増減配が株価に影響を及ぼすことになる。
ただし、成長企業の場合、増配が有利な投資機会の減少と市場で評価されれば、株価の下落を招くこともありうる。
したがって、配当の増減自体よりもその背後にある企業の実態の変化が株価変動をもたらすというべきである。
企業が自社の実態を正しく伝えることこそが、合理的な株価形成のために必要といえよつ。
企業は株主に現金を配当するだけでなく、株式を配当することがあり、株式配当と呼ばれる。
例えば、5%の株式配当がおこなわれると、それまで1、000株を所有している株主は50株を受け取ることになる。
また、企業は株式分割をおこなうこともある。
例えば1株を2株に分割する場合には、それまで1、000株を保有していた株主は、今後、2、000株の株式を保有するようになる。
株式配当と株式分割は、ともに実質的にはこれまでの1株を細分化する点で同じ効果を持っている。
なお、アメリカでは、株式分割と株式配当とでは会計処理のやり方が異なるが、実際には会計処理とは無関係に株数増加率が25%以上のものを株式分割、25%未満のものを株式配当と、株数増加率の大きさによって区分することが多いようである。
では、株式配当や株式分割は株価に対してどのような効果を持つのだろうか。
前述のように、これらはいずれも実質的にはこれまでの1株を細分化する効果を持ち、これによって企業の経済的実態(資産内容やキャッシュフロー)が変化するわけではないので、企業の価値に対しては中立的なはずである。
株式配当や株式分割によって発行済み株数が増加した場合、株式時価総額は影響を受けないので1株当たり株価は株数の増加に見合った分だけ低下する。
したがって、株主の保有する株式の価値は、株数の増加と1株当たり株価の低下が相殺されて以前と変わらない。
よく小幅の株式分割がおこなわれると、株価は分割前の水準にすぐ戻るという主張がなされることがあるが、それは錯覚によるものである。
また、わが国では小幅の株式分割がおこなわれる場合1株当たり配当を変えないことが多いので、株式分割が実質的な増配をもたらすことがある。
このため、実質増配という形で株式分割が株価に対してプラスに働くこともありうる。
しかし、これは実質増配が楽観的な収益見通しのシグナルになるという配当の情報効果にもとづくものである。
株式分割は1株当たり株価の水準を切り下げ、株主の数を増やしたり、株式の流通性を高める手段として用いられることがある。
時には、株式分割が株式の流通性を高めることによって、株式の価値(時価総額)にプラスになると主張されることもある。
しかし、完全資本市場のもとではどの投資家も株式の売買を通じて株価に影響を与えることができないので、株式分割が株式時価総額に与える影響はゼロである。
日本企業の配当性向は、図92に示すように、1980年代後半には30%前後であったが、91年以降、不況にともなう利益水準の低下によって上昇した。
これに対して、アメリカ企業の配当性向は1980年代までは4060%の聞を推移していた。
しかし、90年代に入って、アメリカ企業は株主に対する現金支払い方法として配当よりも自社株買いを重視するようになったため、配当性向は低下し、1999年には34%になっている。
日米企業の配当性向を株主資本利益率(JOE)の水準別に比較してみると、図93に示すように、日米ともJOEが高い企業ほど配当性向が低くなる傾向がみられるが、日本企業のほうが低下傾向が激しく、同じJOEの水準では、日本企業のほうが配当性向が低くなっている。
このように、同じ収益性の水準の企業を比べると、日本企業のほうが配当性向が低いといえる。
この背景としては、次に述べるような日本独特の配当慣行をあげることができる。
その第は1株当たり配当が57円に集中していることである。
額面発行増資が中心だった時代には金利にある程度のリスク・プレミアムを上乗せした1割配当(50円額面の場合1株当たり5円)が標準的な水準と解釈され、業界別、企業別の収益力格差を反映して若干のばらつきがあるというのが通常の姿であった。
その後、増資形態の主流が1970年代半ばに額面発行から時価発行に変わったにもかかわらず、配当のほうは依然として対額面で考えるという慣行が根強く残ったため、株式分割により実質増配がおこなわれでも1株当たり利益の伸びに追いつかず、配当性向が低くなる傾向があったと考えられる。
日本企業の配当政策の第2の特徴として、株式分割による実質増配の多さがあげられる。
アメリカ企業は四半期ごとに配当を支払う慣行もあって、小刻みに配当を変更するが、日本企業が増配する場合には、単純に1株当たり配当を増やす方法よりも1株当たり配当は据え置いて、株式分割による実質増配をおこなう方法が多くとられた。
日本企業の配当政策の第3の特徴は、配当の利益弾力性が著しく欠けていることである。
表92に日米企業の利益変化と配当異動の関係を示した。
表に示されるように、1999年の場合、増益の場合にはアメリカ企業の59%が増配しているのに対し、日本企業は37%が増配しているにすぎない。
また、減益の場合は日本収録されているNYSE上場会社のうち、1998年、1999年で比較可能な732社。
企業の65%は据え置きだが、アメリカでは55%の企業が増配している。
このようにアメリカ企業は増減益にかかわらず、増配志向が高いのに対し、日本企業は配当据え置き志向がきわめて強いのが特徴といえる。
4、2日本企業の配当政策の課題。
今後、日本企業はどのような配当政策をとるべきであろうか。
まず第に、額面に対する配当率の発想を払拭し、今後の業績見通しゃ資金需要などを考慮して、その企業に応じた適切な中期的な配当性向を決定し、株主に示すことが望まれるであろう。
特に今までの日本企業に欠けていた観点として、企業の成長力や資金需要を考慮して配当政策を決定することが必要である。
例えば、投資機会が豊富で成長力の高い企業が内部留保の割合を高め、キャピタルゲインの形で株主に報いることは企業財務理論にかなったものであり、株主に不利益をもたらしているとはいえないのである。
ただし、内部留保重視の政策をとる企業は、低配当性向が決して株主の利益を無視したものでないことを株主への広報活動で積極的に訴えることが必要とされよう。
逆に、成熟した業界に属する企業や多額の資金需要がない企業の場合には、比較的高い配当性向が望ましいといえよう。
第2に、本書で再三述べてきたように、基本的に株価を決めるのは、企業の投資収益率である。
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